音が怖いのは「おかしい」ことじゃなかった──ミソフォニアとの出会い
「音が怖い」と感じているのに、うまく言葉にできないまま日常をやり過ごしていませんか。私も長いあいだ、原因のわからない「音への強い恐怖」と付き合ってきました。この感覚には、のちに「ミソフォニア(音嫌悪症)」という名前があると知ります。本記事では、HSPだけでは説明しきれなかった違和感から、ミソフォニアという言葉にたどり着くまでの体験をまとめました。同じように音に悩んでいる方が、「自分はおかしくない」と少しでも安心できますように。
「音が怖い」と言っても伝わらないしんどさ
「音が怖い」と周りに伝えても、「大きい音が苦手なの?」「雷とか花火が嫌いってこと?」と返されてしまい、なかなか本当のつらさが伝わらないことがあります。私の場合は、音量の問題でも、いわゆる「びっくりする音」だけの話でもありませんでした。特定の音が聞こえた瞬間、心臓がバクバクして呼吸が浅くなり、全身がゾワゾワして、その場から逃げ出したくなる衝動に襲われるのです。まずは、「こういう反応が起きている」と自分自身が認めてあげることが第一歩です。そのうえで、「どんな音のときに、身体がどう反応しているか」を紙やメモアプリに書き出してみると、自分でも説明しやすくなり、周りにも少しずつ共有しやすくなります。
私も当時は、「音が怖い」と口にしては首をかしげられ、そのたびに「やっぱり自分が神経質すぎるのかな」と自分を責めていました。けれど、身体が勝手に反応してしまうのは、性格の問題ではなく、特性や脳の反応の仕方の違いかもしれません。「うまく説明できないけれど、確かにしんどい感覚がある」という事実を否定しないことが、後で自分を助けてくれると感じています。
一人暮らしで気づいた「音という侵入者」
この「音のつらさ」をはっきりと自覚したのは、上京して一人暮らしを始めたころでした。実家では家族の生活音に囲まれていたため、それが「当たり前の環境」として溶け込んでいたのだと思います。一人になれば静かに暮らせるはず……そう期待していたのに、実際の部屋には、隣の物音や上階の足音、機械のモーター音、風や雨がつくる細かな音が、次々と侵入してきました。「誰かの生活音」というより、コントロール不能な「侵入者」のように感じられたのです。
とくにつらかったのは、「自分では止められない音」だったことです。隣人や上の階に「静かにしてください」と言うわけにもいかず、雨も風も止められません。逃げ場のない感覚に追い詰められ、家なのにくつろげない状態が続きました。
もし、あなたが同じような状況なら、耳栓やホワイトノイズ、環境音アプリなど、「音との間にワンクッション置く道具」を取り入れてみるのも一つの方法です。私は、子どもが産まれる前まではホワイトノイズをときどき利用していました。産後、一時期ホワイトノイズは夜泣き対策に使えたので、意外と長くお世話になれるアイテムです。
HSPという言葉に出会って、一度は安心した
そんな折、「HSP(Highly Sensitive Person)」という言葉が広まり始めました。感覚が敏感で疲れやすく、一人の時間が必要になりやすい人のことを指す概念です。HSPの本や記事を読み進めるうちに、「これだ」と感じる部分がいくつも見つかりました。音や光に敏感で、人混みが苦手で、すぐに疲れてしまう。まさに自分のことが書かれているようで、「私はただ神経質なわけではなく、HSPという気質があるのかもしれない」と受け止められたとき、大きな安心感がありました。
「名前がついた」ことで、自分を少し優しく扱えるようになったのも事実です。「無理にがんばりすぎなくていい」「休憩が必要なのは性格の弱さではない」と考えられるようになり、生活の整え方も少しずつ変わっていきました。今、HSPという言葉でホッとしている方も、それは決して悪いことではありません。ただし、「HSPならこう」という枠にはめ込みすぎず、「それでも説明できない違和感」がないか、自分の感覚に耳を傾け続けることが大切だと感じます。
それでも説明できなかった「音への反応」の違和感
ところが、HSPの本をいくら読んでも、私が抱えていた「あの感覚」について語られている箇所は見つかりませんでした。音が聞こえた瞬間に息が苦しくなり、心臓が暴れ出し、全身が総毛立つような感覚。穏やかに過ごしていたはずなのに、特定の音が鳴った途端、怒りや恐怖が一気に噴き出してしまう。これは、ただ「刺激に敏感」「疲れやすい」というレベルではありません。
音が鳴っているあいだ、私は自分が自分でなくなるような感覚に襲われていました。でも、HSPの解説のどこを探しても、その「別人格になってしまうような強烈な反応」には触れられていません。「HSPの中にもいろいろなタイプがいるのだろう」と自分に言い聞かせる一方で、「それだけでは説明しきれない何かがある」とうっすら感じ続けていました。この段階で、音の記録や環境の工夫をもう少し真剣にしておけばよかったな、と今になって思う部分もあります。
10年以上かかって、ようやく出会えた「ミソフォニア」という言葉
そうしているうちに、気づけば10年以上の月日が流れていました。結婚し、子どもが生まれ、家族を巻き込んで何度も引っ越しをしながら、私は相変わらず「音に追われる暮らし」を続けていました。そんなある日、偶然目にしたのが「ミソフォニア(音嫌悪症)」という言葉です。「特定の音に対して、強い不快感や怒り、恐怖を感じる状態」と説明されているのを読んだ瞬間、全身に電流が走ったような感覚がありました。
ミソフォニアの説明には、音を聞いた瞬間の動悸、呼吸のしづらさ、全身がゾワゾワする不快感、その場から逃げ出したくなる衝動、音の原因への怒り、音が鳴るかもしれないという予期不安……私が10年以上かけても言葉にできなかった感覚が、ほとんどそのまま書かれていたのです。「HSPでは説明できなかった違和感」は、このミソフォニアという特性によるものかもしれない──そう思えたとき、「ようやくスタートラインに立てた」と感じました。
「あなたは、おかしくない」と伝えたい
ミソフォニアという言葉に出会ったとき、私の中には安堵と不安と希望が一度に押し寄せてきました。これからどう向き合えばいいのか、不安はもちろんあります。それでも一番大きかったのは、「私はおかしくなかったんだ」という気持ちでした。長いあいだ名前のないまま抱えてきた感覚に、ようやく名前がついた。同じように苦しんでいる人が世界中にいることがわかり、専門家や当事者が試している向き合い方が存在することも知りました。
もし今、「音が怖い」「自分だけ反応が大きすぎる気がする」「HSPだけでは説明できない違和感がある」と感じているなら、あなたはおかしくありません。たまたま、音の聞こえ方や脳の反応の仕方が、少し周りと違っているだけです。それは、あなたの努力不足でも、性格の弱さでもなく、あなたのせいではありません。必要であれば、心療内科やカウンセリングサービスなど、専門家に相談する選択肢もあります。一人で抱え込まずに、頼れるところは遠慮なく頼ってほしいと心から思います。
まとめ:音が怖いと感じるあなたへ
最後に、この記事の内容を簡単にまとめます。
- 「音が怖い」という感覚は、単なる神経質ではなく、ミソフォニアという特性が関わっている場合があります。
- HSPという言葉で救われる部分がありつつも、「それだけでは説明できない強い反応」が残ることもあります。
- 特定の音で動悸や呼吸困難、強い怒りや恐怖が出るときは、自分を責めず、特性として捉え直すことが第一歩です。
- 耳栓・ノイズキャンセリング・ホワイトノイズ・オンライン相談など、「音との距離をとる工夫」や「話せる場づくり」は、自分を守るための立派な手段です。
この記事では、ミソフォニアという言葉に出会うまでの道のりをお話ししました。次回からは、具体的にどんな音に追い詰められてきたのか、家族との関わりの中でどんな工夫をしてきたのか、そして日常生活で実際に役立った対策について、少しずつお伝えしていきます。気になる方は、ぜひこの記事をブックマークして、続きも読んでいただけたら嬉しいです。





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