講師がAI導入で感じた葛藤と、講師(人間)にしかできないこと
授業準備や教材づくりにAIを使うことに、罪悪感を覚えたことはありませんか?
「教育者がAIに頼るなんて手抜きでは」「そのうち自分の仕事もAIに奪われてしまうのでは」と不安になりつつも、深夜まで続く授業準備に限界を感じている先生は少なくないはずです。
私自身も専門学校で講師をしていた頃、まったく同じ葛藤を抱えながら生成AIを導入しました。しかし実際に授業準備にAIを使ってみると、「仕事が奪われるどころか、講師にしかできない仕事がよりクリアになった」という感覚がありました。
この記事では、講師としてAIを導入したリアルな心境と、使ってみて分かったメリット、そしてAIでは絶対に代替できない講師の役割についてお伝えします。授業準備の負担を減らしつつ、「先生らしさ」を大切にしたい方に向けた内容です。
AI導入に罪悪感を抱くのはごく普通のこと
まずお伝えしたいのは、「AIを授業準備に使うことへの後ろめたさ」は、多くの先生が共有している感情だということです。私も最初は、「AIを使うことは講師失格なのでは」「教育という、人間にしかできない仕事までAIに取られてしまうのでは」と強い不安を覚えました。
その一方で、授業準備や教材づくり、資料整理に追われ、夜遅くまでパソコンに向かう生活に限界も感じていました。「このままでは続けられない」と思いつつ、「AIに頼るのはズルいのでは」という葛藤の板挟みになっていたのです。
私はもともと「見たり使ったりしたことのないものをレビューしない」という考えがあり、「使わなければ何もわからない」と思い切って生成AIに触れてみました。とはいえ最初の頃は、同僚やクリエイター仲間にAI活用の話をするのが怖くて、まるで「隠れオタク」をしているような感覚でした。私も、オタクがオタクであることを公言するのがためらわれた時代、隠れオタクをしていたものです。
しかし今は、好きなものを堂々と「好き」と言える時代になったように、「授業準備にAIを使っている」と胸を張って言えるようになりました。罪悪感や不安を抱えたスタート地点からでも、少しずつ付き合い方を学んでいけるのだと実感しています。
実際にAI導入して分かった授業準備3つのメリット
いざAIを授業準備に取り入れてみると、「仕事を奪われる」という感覚はほとんどありませんでした。むしろ、「面倒だった雑務を任せられる相棒ができた」という印象が強く、教育の本質的な部分に向き合う時間が増えたのです。ここでは、実際に感じたメリットを3つに整理してお伝えします。
1. 資料整理や参考文献リスト作成の効率化
授業で扱うテーマについて情報収集をしたあと、資料を整理したり、参考文献リストをまとめたりする作業は、意外と時間を奪う仕事です。生成AIを使うと、集めた情報の要約や、参考になりそうな論点の整理を短時間で行えるようになりました。
もちろん最終的な確認は人間が行う必要がありますが、「ゼロから自分で文章化する」よりも、AIのたたき台をベースにして手を加える方が圧倒的に早くなります。
2. シラバスや授業計画の下書きが格段に早くなる
授業全体の構成を考えるシラバスや年間計画も、AIを活用することで下書き作成のスピードが大幅に上がりました。「学習目標」「到達目標」「評価方法」の候補をAIにまとめてもらい、その中から自分の方針に合うものを選び、修正していくイメージです。
一からすべての文言を考えるのではなく、「雛形をもとに手直しする」スタイルに変えられることで、考えるべきポイントに集中できるようになりました。
ただ、私はAIに計画を立ててもらいながらも、それらをアナログ手帳に書き込んでいます。どれだけアプリ手帳が流行っても(そっちも使っていますが)アナログ手帳は手放せません。
実際に使ってみて、授業計画の見通しを立てるのにこれらアナログの管理ツールも相性がいいと思います。なお私は、毎年娘と一緒にちいかわ手帳を愛用しています。デザインに癒されますし、実は書き込み欄のサイズがちょうどよくてとても便利なんです。バインダータイプは、仲の良い先生が長年愛用しており、自分でレフィルを作っています。自由度が高くていいですね。
3. 学生配布用のプリントの「たたき台」を短時間で作成
学生に配布するプリントやワークシートも、AIに「たたき台」を作成してもらうことで、作業時間が大きく短縮されました。特に、例題と練習問題を組み合わせたプリントは、人力だけで作るとかなりの時間がかかります。
AIに一度ざっと作ってもらい、その後でレベル感や授業の流れに合わせて問題を入れ替えたり、言い回しを整えたりするだけで済むようになりました。こうした「下書きの自動生成」は、授業準備に追われる先生にとって非常に心強いサポートになります。
AIを使っても変わらない「講師にしかできない仕事」
AIを使えば使うほど、「授業や教材がAI任せになることはない」と確信するようになりました。なぜなら、教育の根幹にあるのは、講師自身の経験や価値観、生身の学生との関わりの中で培われる感覚だからです。ここはAIが入り込めない領域です。
たとえば、次のような部分は、どれだけAIが進化しても講師の役割として残り続けると感じています。
- 学生一人ひとりの「つまずき」や表情の変化を見抜き、授業の進め方を微調整すること
- 自分の専門分野や現場での経験をもとに、リアルな事例やエピソードを交えて説明すること
- そのクラスの空気感や学生の特性に合わせて、言葉の選び方や問いかけ方をアレンジすること
- 学生が自分の将来やキャリアについて悩んだとき、対話を通じて寄り添い、背中を押すこと
AIはあくまで「情報」を扱うのが得意なツールです。たとえば、漢字や用語を間違えることもありますし、もっともらしい誤情報(ハルシネーション)を自信満々に出してくることもあります。
だからこそ、最後の仕上げをするのはやはり講師の仕事です。AIが作った文章や教材に「その先生らしさ」を宿らせるのは、現場で学生と向き合っている先生にしかできません。
授業準備でAIを使いこなす鍵は「プロンプト力」
AIを教育現場で真に役立つ相棒にするために欠かせないのが、「プロンプト(指示文)」を書く力です。AIは、与えられた指示の範囲でしか動けません。曖昧な指示しか与えられなければ、返ってくる答えも当然曖昧になります。
たとえば、ある生徒が「朝、起きるのが苦手だから対策を考えて」とAIに相談したケースがありました。すでに目覚まし時計の複数使いやカーテンの自動オープンは試していたのに、その情報をAIに伝えなかったため、「目覚まし時計を増やす」といった既に試した方法ばかりが提案されてしまいました。
生徒は「知っていることしか教えてくれなかった」とがっかりしていましたが、問題はAIではなく「プロンプトの情報不足」だったわけです。
授業準備でも同じです。「中学生向けの数学のプリントを作って」だけでは不十分で、次のように具体的に指示を出すと、使えるレベルの下書きが返ってきます。
中学2年生向けの数学のプリントを作ってください。
単元は「一次関数の基礎」です。
・例題を3問
・練習問題を5問
・すべてに解説をつける
・文章量は、中学生にとって読みやすい長さにする
このように、対象・レベル・目的・問題数・解説の有無などを具体的に指定することで、AIの提案の質は大きく変わります。AIを本当に「頼れる相棒」にできるかどうかは、先生のプロンプト力次第といっても過言ではありません。
プロンプト力を高めるには、体系的に整理された解説書が役に立ちます。もちろん、このブログでも具体的なプロンプトをいくつかご紹介しています。
今日からできるAI導入の小さな一歩
「AIを活用してみたいけれど、何から始めたらいいか分からない」という先生には、次回の授業で使うプリントから小さく試してみることをおすすめします。完璧を目指す必要はありません。まずは「AIにたたき台を作ってもらい、自分で仕上げる」という流れを一度体験してみてください。
ステップ1:テーマと対象学年を決める
まず、「どの授業で」「どんなテーマのプリント」を作るのかを決めます。例:
「高校1年生・現代文の読解プリント」「専門学校1年生・ビジネスマナーの確認テスト」など、できるだけ具体的に設定しましょう。
ステップ2:AIに具体的なプロンプトを投げる
次に、先ほどの例のように、対象・単元・問題数・解説の有無などを含めたプロンプトをAIに入力します。出力された内容をそのまま使うのではなく、「自分の授業の流れに合っているか」「学生のレベルに合っているか」を確認しながら調整していきます。
ステップ3:自分の言葉と経験を乗せて仕上げる
最後に、AIが作った文章に、自分の経験や授業でのエピソードを加えていきます。ここで初めて、「その先生らしいプリント」になります。AIが作ったものをベースにしつつ、人間にしかできない部分で仕上げる感覚を一度味わうと、「AIとの付き合い方」のイメージがぐっと掴みやすくなります。
まとめ:AIは先生の「時間」と「余裕」を取り戻す味方
AIを授業準備に導入するとき、多くの先生が「手抜きではないか」「仕事を奪われるのではないか」という不安を抱きます。しかし、実際に使ってみると分かるのは、AIは教育の本質を奪う存在ではなく、先生の時間と心の余裕を取り戻してくれる心強いパートナーだということです。
資料整理やシラバス作成、プリントのたたき台づくりなどの雑務をAIに任せることで、学生との対話や授業の質を高める工夫といった「講師にしかできない仕事」に集中できるようになります。
大切なのは、「AIに任せる部分」と「自分が担う部分」を見極めること。そして、AIを上手に動かすためのプロンプト力を少しずつ磨いていくことです。
まずは、次回授業のプリント1枚からでかまいません。AIに下書きを作ってもらい、自分らしい言葉と経験で仕上げてみてください。その小さな一歩から、AI時代の新しい授業スタイルがきっと見えてきます。



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