音が聞こえた瞬間、身体が勝手に反応する【ミソフォニアの身体症状】
「ただの気にしすぎ」「神経質なだけ」と言われても、苦手な音が聞こえた瞬間に、呼吸が乱れたり、心臓がバクバクしたり、全身がゾワッと総毛立ったりする──そんな経験はありませんか。
私の場合、ミソフォニア(音嫌悪症)の症状として、この「音が聞こえた瞬間の身体反応」がずっと続いていました。自分の意志では止められず、気合いではどうにもならない反応です。
この記事では、ミソフォニア当事者である私が、苦手な音を聞いた瞬間に身体の中で何が起きていたのかを、できるだけ具体的に言葉にしてみます。「気のせい」ではなく、身体レベルで本当に起きていたこととして、あなたや周りの人の理解の一助になればうれしいです。
前半では私の体験談をもとに、呼吸・皮膚感覚・心臓・感情の変化を順番に紹介し、後半では「気にしすぎ」ではなく身体の防御反応であること、そして少しラクになるための小さな工夫についてお話しします。
ミソフォニアの音トリガーで起こる身体反応とは?
ミソフォニアのつらさは、「音が聞こえるのが嫌」というレベルを超えて、音をきっかけに身体そのものが勝手に暴走してしまうところにあります。苦手な音が聞こえた瞬間、呼吸・皮膚・心臓・感情が一気に変化し、頭の中がその音でいっぱいになってしまうのです。
ここでは、私の体験をもとに「音が聞こえた瞬間から数秒〜数分のあいだに起こること」を、できるだけ細かく分けて説明します。当事者の方は「そこまで言語化していいんだ」と感じてもらえたらうれしいですし、周りの方には「こんな世界が見えているんだ」とイメージしていただけたらと思います。
呼吸が、うまくできなくなる
苦手な音が聞こえた瞬間、まず一番におかしくなるのが呼吸でした。
胸のあたりがぎゅっと締め付けられるような感覚がして、息を吸おうとしても空気がうまく入ってきません。浅く、速い呼吸になって、それがまた苦しさを増していく──そんな悪循環が始まります。
「落ち着かなきゃ」と思って深呼吸をしようとしても、途中で息が止まってしまうこともありました。頭では「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせているのに、身体が勝手にパニックに向かっていく感覚です。
全身がゾワゾワと総毛立つ
呼吸の変化とほぼ同時に、皮膚の感覚も変わっていきます。
背中から首筋にかけて、何かが這い上がってくるような感覚。鳥肌が立って、皮膚がピリピリと痛むような気さえしました。時には視界がぼんやりと白っぽくかすんでいくこともあります。
後から知ったのですが、これは強いストレスを感じたときに起こる「闘争・逃走反応」と呼ばれる身体の防御反応に近いものだそうです。脳が「危険だ」と判断し、身体が戦うか逃げるかの準備を始めてしまうのです。
心臓の音が、すべてをかき消す
さらに、心臓の鼓動も一気に激しくなります。
心臓がドクン、ドクン、ドクンと力強く打ち始め、その音が耳の中で反響します。外から聞こえてくる音と、自分の心臓の音が混ざり合い、頭の中が「音」でいっぱいになっていきます。
心臓の鼓動が大きすぎて、他のことが何も考えられなくなる。頭の中が真っ白になって、ただ「この音をどうにかしたい」という思いだけが渦巻いている状態でした。
怒りと恐怖が、同時に押し寄せる
身体の反応と一緒に、怒りと恐怖という相反するような感情も同時に湧き上がってきます。
ひとつは、音の原因に対する怒りです。「なぜこんな音を立てるのか」「なぜ止まらないのか」「なぜ私だけがこんなに苦しまなければならないのか」。機械や建物、天候など、相手が何であれ、理不尽な怒りが込み上げてきます。
もうひとつは、この状態がいつまで続くのか分からないことへの恐怖です。「この音はいつまで続くんだろう」「永遠に止まらないのではないか」「私はこの音とずっと付き合っていかなければならないのか」。そんな予感が、じわじわと絶望に変わっていきました。
怒りと恐怖。正反対のようでいて、どちらも「音」がトリガーになって、自分の意志とは関係なく湧き上がってくるものでした。
叫びたいのに、叫べない
本音を言えば、その場から逃げ出したい。窓を開けて大声で叫びたい。この苦しさをどこかに吐き出してしまいたい──そう思うことも何度もありました。
でも、集合住宅に住んでいる以上、隣にも上にも下にも人がいます。私が叫んだら、今度は私が「騒音を出す人」になってしまいます。そのことを考えると、声をあげることもできませんでした。
イヤホンで音楽を聴いて気を紛らわせようとしても、曲と曲の間の無音が怖い。トイレに立つとき、イヤホンを外すのが怖い。結局、音から逃れているつもりでも、頭の中はずっと音のことでいっぱいでした。
これは「気にしすぎ」ではなく、身体の防御反応です
こうした反応を人に話すと、「そこまで気にしなくてもいいのに」「気持ちを切り替えなよ」と言われてしまうことがあります。でも、ミソフォニアのつらさは、「気にしている」レベルではなく、「身体が勝手に反応してしまう」ことにあります。
脳が特定の音を危険信号として認識してしまうと、自律神経が一気に緊張モードに傾きます。その結果、呼吸が浅くなり、心拍数が上がり、筋肉がこわばり、怒りや恐怖が一気に高まる。これは、いわゆる「闘争・逃走反応(Fight or Flight)」と呼ばれる、人間に備わった生存のための防御システムだと言われています。
つまり、ミソフォニアの反応は、「わがまま」でも「甘え」でもありません。身体が「自分を守ろう」として、必要以上に強く反応してしまっている状態なのです。そのことを、まずは当事者自身が知っておくことが大切だと感じています。
少しでもラクになるために、今日からできる小さな工夫
もちろん、ミソフォニアのつらさを「これをすれば一気に解決できます」とは言えません。それでも、私自身が試してみて、ほんの少しだけラクになったと感じた工夫をいくつかご紹介します。
完璧を目指すのではなく、「今よりちょっとだけマシにする」くらいの気持ちで取り入れてみてください。
物理的に音を減らすアイテムを取り入れる
- 耳栓やノイズキャンセリングイヤホンを常備しておく
- お気に入りのヘッドホンやイヤホンで常に動画や音楽を流す(プレイリストを作っておくのもおすすめ)
- 生活音が入りにくいカーテン・ラグ・家具の配置を試してみる
- どうしても苦手な時間帯は、あらかじめ別の場所に避難できないか考えておく
私が愛用しているのは、こちらのロジクール・ゲーミングヘッドホンG335です。
有線なのは、充電切れが怖いから。音楽や動画視聴だけではなく、マイクがついていてそのままオンライン会議もできます。着席している限り耳が「守られる」感覚になれます。長時間つけていても疲労せず、ノイズキャンセリングではありませんが静かな動画を見ていても周囲が気にならないような音の鳴り方をしてくれていると思います。
離席するときは、必要に応じて耳栓に付け替えています。ゲーミングヘッドホンとしては10,000円を切るお手頃なものですので、まずはこれからお試しになるのをおすすめします。
「いま身体が反応しているだけ」とラベリングする
苦手な音が聞こえて身体が反応し始めたとき、「またダメだ」「私は弱い」と自分を責めてしまうと、さらに苦しさが増してしまいます。
そんなときは、心の中でそっと「いま、身体が反応しているだけ」「音にびっくりして、自律神経が頑張っているだけ」とラベリングしてみてください。すぐに楽になるわけではなくても、自分を責める方向からほんの少し距離を取ることができます。
安心できる人に、少しだけ事情を伝えておく
ミソフォニアのつらさは、なかなか言葉にしにくいものです。だからこそ、信頼できる家族やパートナー、友人に対してだけでも、「特定の音が苦手で、身体が勝手に反応してしまうことがある」と伝えておくと、安心材料になります。
「こういう音が続くとつらくなるので、もし気づいたら教えてもらえると助かる」など、具体的なお願いを一つだけ伝えておくだけでも、孤独感が少しやわらぎます。対面で話すのが難しい場合は、手紙やメッセージにして渡してみるのも一つの方法です。
同じように音に悩むあなたへ伝えたいこと
ミソフォニアの反応は、周りからは見えにくく、「わがまま」「神経質」と誤解されてしまうことも少なくありません。でも実際には、音をきっかけに自律神経が一気に緊張し、呼吸や心拍、皮膚感覚、感情までが巻き込まれてしまう、とても消耗する状態です。
もしこの記事を読んで「自分も同じようなことが起きている」と感じたとしたら、あなたは決して一人ではありません。私も、同じように音に振り回されてきた一人です。
すぐにすべてを解決することは難しくても、「これは気のせいではなく、身体の防御反応なんだ」と知ること。「ちょっとだけラクになる工夫」をひとつ試してみること。その積み重ねが、少しずつ自分の暮らしを守る力になっていくはずです。
この記事で書いた体験や工夫を、あなたなりにアレンジして使ってもらえたらうれしいです。
この記事のまとめ
- ミソフォニアでは、苦手な音が聞こえた瞬間に呼吸・皮膚感覚・心臓・感情が一気に変化し、身体が勝手に反応してしまう。
- これらは「気にしすぎ」ではなく、脳が危険を察知したときに起こる「闘争・逃走反応」に近い身体の防御反応と考えられている。
- 耳栓やノイズキャンセリングイヤホン、環境調整などの物理的対策は、心と身体を守るための大事な道具になる。
- 「いま身体が反応しているだけ」とラベリングしたり、信頼できる人に少しだけ事情を伝えたりすることで、孤独感や自己否定感を和らげることができる。
- 一気にすべてを変えようとせず、「今より少しラクになる工夫」を積み重ねていくことが、自分を守ることにつながっていく。
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ここまで読んでくださって、ありがとうございました。もしよければ、これまでの本シリーズ連載も読んでみてください。
- 第1話「音が怖いのは『おかしい』ことじゃなかった──ミソフォニアとの出会い」(ミソフォニアとの出会いと気づきまでの簡単なまとめ
- 第2話「一人暮らしで初めて気づいた『音』という侵入者」(一人暮らしの中で「音」に翻弄される日々)
この記事が、音に悩むあなたや、身近な人の感覚を理解したい誰かの、小さな助けになればうれしいです。



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